この度、『Gentlemen prefer blondes(紳士は金髪がお好き)』の翻訳を販売するにあたり調べたことを記します。なお、このページの文は個人がまとめたものであり、誤りがある可能性があるため、個別の事案については参考にしないでください。
『Gentlemen prefer blondes』翻訳の前提事項
- アメリカ合衆国にて発行された文芸書。
- 初版発行年は1925年。
- 1981年に著者が死亡している。
- 1927年に日本国内にて翻訳物が出版されている。
- 書籍の翻訳文のみを販売する予定。原作の原文・表紙・挿絵は利用しない。
主に参考にしたもの
著作権法 第五十八条
「著作権法 第五十八条」には、以下のように記されています。
第五十八条
文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約により創設された国際同盟の加盟国、著作権に関する世界知的所有権機関条約の締約国又は世界貿易機関の加盟国である外国をそれぞれ文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約、著作権に関する世界知的所有権機関条約又は世界貿易機関を設立するマラケシュ協定の規定に基づいて本国とする著作物(第六条第一号に該当するものを除く。)で、その本国において定められる著作権の存続期間が第五十一条から第五十四条までに定める著作権の存続期間より短いものについては、その本国において定められる著作権の存続期間による。
本件は「その本国において定められる著作権の存続期間が第五十一条から第五十四条までに定める著作権の存続期間より短いもの」に当てはまるのでしょうか。
- アメリカ合衆国(本国)では、1977年までに発表された著作物は発行後95年間保護します。そのため、本件はアメリカ合衆国において1920年に保護が切れています(戦時加算については一旦考えないでおきます)。
- 第五十一条では、「著作者の死後(共同著作物にあつては、最終に死亡した著作者の死後。次条第一項において同じ。)七十年を経過するまでの間、存続する。」とされています。つまり、本件については2051年まで保護が切れないのではと思われます。
つまり、「その本国において定められる著作権の存続期間が第五十一条から第五十四条までに定める著作権の存続期間より短いもの」に当てはまると考えられます。それでは本件も、アメリカ合衆国での存続期間を当てはめればいいのでしょうか。
文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約
「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」に、日本は1899年、アメリカ合衆国は1989年に批准しています。
しかし、本件の出版年は1925年であり、アメリカ合衆国が批准する前となります。「キューピー事件」の判決文では、アメリカ合衆国のベルヌ条約加入により著作権法五八条を遡及的に適用できるかについても判じられています。今回はこの判決文を参考に、「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」ではなく、当時日米間で結ばれていた「日米間著作権保護ニ関スル条約」が適用されるものと考えました。
第十八条 〔遡及効〕
(1)この条約は、その効力発生の時に本国において保護期間の満了により既に公共のものとなつた著作物以外のすべての著作物について適用される。
(2)もつとも、従来認められていた保護期間の満了により保護が要求される同盟国において公共のものとなつた著作物は、その国において新たに保護されることはない。
(3)前記の原則の適用は、これに関する同盟国間の現行の又は将来締結される特別の条約の規定に従う。このような規定がない場合には、各国は、自国に関し、この原則の適用に関する方法を定める。
(4)(1)から(3)までの規定は、同盟への新たな加盟の場合及び保護が第七条の規定の適用により又は留保の放棄によつて拡張される場合にも適用される。文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ改正条約(抄) | 条約 | 著作権データベース | 公益社団法人著作権情報センター CRIC
日米間著作権保護ニ関スル条約
「日米間著作権保護ニ関スル条約」は、1906年に日本で公布されてサンフランシスコ平和条約にて廃棄された、日本及び米国間の条約です。翻訳について次の記載がされています。
第二條
両締約國ノ一方ノ臣民又ハ人民ハ他ノ一方ノ臣民又ハ人民カ其ノ版圗内ニ於テ公ニシタル書籍、小冊子其ノ他各種ノ文書、演劇脚本及樂譜ヲ認許ヲ俟タスシテ翻譯シ且其ノ翻譯ヲ印刷シテ公ニスルコトヲ得ヘシ
これら一連のことから、本件の翻訳を販売するのに著作権上の問題はないと考えました。そこで、著作権情報センターのテレホンガイドに確認の上、翻訳作業を進めました。
その他、参考にしたもの
その他、「(旧)著作権法 翻訳権十年留保条項」、「連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律(戦時加算)」、「裁定制度」についても確認しました。
(旧)著作権法「翻訳権十年留保条項」
「翻訳権十年留保条項」は、本国で発行されてから10年以内に国内で翻訳物が発行されなかったときに、翻訳権が消滅するというものです。1970年以前の著作には適用できると思われるのですが、『Gentlemen prefer blondes』は1927年に秦豊吉により翻訳されているため、適用されません。
旧著作権法
第七条 〔同前-翻訳権〕
著作権者原著作物発行ノトキヨリ十年内ニ其ノ翻訳物ヲ発行セサルトキハ其ノ翻訳権ハ消滅ス
前項ノ期間内ニ著作権者其ノ保護ヲ受ケントスル国語ノ翻訳物ヲ発行シタルトキハ其ノ国語ノ翻訳権ハ消滅セス
新著作権法
(翻訳権の存続期間についての経過措置)
第八条 この法律の施行前に発行された著作物については、旧法第七条及び第九条の規定は、なおその効力を有する。
連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律(戦時加算)
「連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律」は、連合国の著作物に対して保護期間を加算するものです。先に述べた「日米間著作権保護ニ関スル条約」が平和条約締結まで存続していたため、本件への適用はないのではと考えています。
(著作権の存続期間に関する特例)
第四条 昭和十六年十二月七日に連合国及び連合国民が有していた著作権は、著作権法に規定する当該著作権に相当する権利の存続期間に、昭和十六年十二月八日から日本国と当該連合国との間に日本国との平和条約が効力を生ずる日の前日までの期間(当該期間において連合国及び連合国民以外の者が当該著作権を有していた期間があるときは、その期間を除く。)に相当する期間を加算した期間継続する。
2 昭和十六年十二月八日から日本国と当該連合国との間に日本国との平和条約が効力を生ずる日の前日までの期間において、連合国又は連合国民が取得した著作権(前条の規定により有効に取得されたものとして保護される著作権を含む。)は、著作権法に規定する当該著作権に相当する権利の存続期間に、当該連合国又は連合国民がその著作権を取得した日から日本国と当該連合国との間に日本国との平和条約が効力を生ずる日の前日までの期間(当該期間において連合国及び連合国民以外の者が当該著作権を有していた期間があるときは、その期間を除く。)に相当する期間を加算した期間継続する。(翻訳権の存続期間に関する特例)
第五条 著作物を日本語に翻訳する権利について、著作権法附則第八条の規定によりなお効力を有することとされる旧著作権法第七条第一項(翻訳権)に規定する期間につき前条第一項又は第二項の規定を適用する場合には、それぞれ更に六箇月を加算するものとする。
裁定制度
なお、著作権の保護期間内の作品について裁定制度を利用する場合は、その準備として出版社に権利者について問い合わせをすることになるかと思います。翻訳出版に関する問い合わせでは発行部数や出版予定時期など詳細を聞かれることが多いため、あらましを事前に決めておくと比較的スムーズです。