『In love with the Arrow Collar Man』脚本の感想

J-C-Leyendecker

2017年に公演された、アメリカ希代の広告画家J.C.ライエンデッカー(以下JCL)に関する劇『In love with the Arrow Collar Man』について、脚本家のLance Ringel氏のご厚意で脚本を拝読することができた。以下、感想を記す。

脚本はチャールズ・ビーチがライエンデッカー兄弟に出会ってから、JCLが亡くなるまでの半世紀を、語り部である「美術教師」の解説や補完を挟みつつ描いている。

一番新鮮だったのはメイン2人のキャラクター描写だ。チャールズ・ビーチはチャーミングで純粋無垢な青年、JCLはスムースで場を取り仕切る年上の男性として描かれる。ロックウェルは自伝にてJCLを気弱な被害者、チャールズ・ビーチを計算高い傲慢な男として捉えていたが、それはロックウェルの主観に過ぎない上、ロックウェルの自伝の信憑性はあまり高くない。この脚本のキャラクター描写は、出会った当時の2人の立場の違いを考えると容易に納得することができる。
フランクとオーガスタはシンデレラの意地悪な姉役に徹しているが、それぞれに輝く瞬間がある。特にフランクがチャールズと初めて出会ったシーンなどは最高だった。ガイナンやロックウェルなどサブキャラクターも魅力的だ。

史実からは意図的に改変してある。例えば、ロックウェルが目撃して自伝に記録している「薪を取ってよ」事件からロックウェルは消えている。また、チャールズを最初に雇ったのはフランクだが、この脚本からはそうとは読み取れないだろう。しかしJCLについて楽しいマメ知識が随所に埋め込まれており、改変も物語を引き立てるためのものでしかない。フランクのためにパーティーを控えるようになった、という解釈も、自分では思いつきもしなかった話の運びで良かった。(以前自分でJCLの小説を書いたときに「ウィンチェルに脅されてパーティーを控える」という流れにしたのだが、つまりそれしか思いつかなかったのだ)

とてもロマンチックで小気味よく、楽しく読めた。ぜひいつか実際に演じられているところも見てみたい。

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