没入型演劇「Sleep No More – 上海公演」プレイログ&感想

GameLiterature

『Sleep No More』は、没入型演劇の始祖とされる劇団Punchdrunkが手がける作品だ。観客は顔全体を隠す仮面を着用し、建屋内(街区・室内などを模した空間)を自由に移動しながら、同時多発で進行する複数のシーンを任意で観劇する。

冒頭にルールを説明してくれるキャラクター(唯一の撮影可能場面)

シェークスピア劇『Macbeth』から極力台詞を排する形で再構成されているため、ダンスや演出、空間そのものから物語を読み取る。つまり、観客は自らの選択によって物語の断片を収集し、再構築するという能動的な立場に置かれる。

感想

こちらの劇は現在、上海およびソウルの2箇所で上演されている。2026年5月に上海での上演を体験し、この体験が非常にユニークでありながら「ゲームに近い」(しかも、Type HelpやObra-dinnなどの脳鎖型ゲームに特に近い)と感じたため、その理由を整理してみる。

ルール・時間制限

ルールがあるからこそゲーム!

観客は「自由に歩き回っていい」とされているが、次の制限がある。

  • 特定の部屋や場所に入ることは禁止されている(竹林で迷っているときや、階段で最上階に行こうとしたときに遭遇した)。
  • 役者の近くや、今後の動きを阻むような場所(時に自分で判断がつくが、判断がつかないことも多い)に立つことは禁止されている。

このような行為を行うとフィールド内の黒子により「無言の誘導」を受けることになるため、観客は常にルールを意識しながら動くことになる。

また、当然ながら演劇には終わり(時間制限)があり、観劇(プレイ)にかなりの緊張感を与えている。

リトライ・周回プレイ

SNMは演技がシームレスにループしており、1回の演劇に同じ演技が2回含まれる。つまり、「次は別のルートを試そう!」という周回プレイを前提とした設計になっている。

再現可能性の高さ

ほぼ同じ演技が繰り返されるため、プレイにはある程度の再現可能性がある。このことで、「学びを生かして、次はよりうまく探索しよう」「次はAではなくBをしよう」という動機づけが得られる。

ただし、他の観客の動きなどが2回めでは異なるため(そして、別の公演に入ると開始地点も異なる可能性があるため)、完全に再現可能でないところも面白さに繋がっている気がする。自分の場合は、2回めでは明らかに座っているプレイヤーが多く、動きやすかった。

探索による情報収集・環境ストーリーテリング

SNMは6階建の広大な建屋で行われるため、1箇所に留まっていては「物語の全体像」が提示されない。そのため、ADVのように探索をして情報を能動的に回収する必要がある。

また、空間内には手紙や小道具、開けられる引き出しなどの環境ストーリーテリングが仕込まれている。『The Psychgeist of Pop Culture – Sleep No More』の「”PLAYING” SLEEP NO MORE」では、これらを発見・解釈する行為を『Gone Home』や『The Case of the Golden 』などと比べている人もいた(自分は小物はほぼ確認できなかったが…)。

収集した情報の整理

回収した情報を解釈(この人は○○に殺されたんだろうな、この人の名前は○○だろうな)し、脳内で整理することで、「キャラ名・外見・エピソード・時間・場所」のリストとタイムラインが少しだけ脳内に構築されていった。この構築作業がDinn-likeやType Help-likeのプレイ体験にかなり近く、同行者とは「このメディアでType Helpと出会うことある?!」と衝撃を受けた。

体験の固有性

どのキャラクターを追うか、どの部屋に入るかによって得られる情報が変化するため、各人の体験ログが固有のものになる。自分は5人グループで体験したのだが、それぞれプレイスタイルが異なり、Outer Wilds並に全く別の体験をしていた。小ネタも多く、多くのプレイヤーがいるのに「自分しかこのエピソードに気づいてないだろうな」と思ってしまうところも、作り込まれたゲームのように感じる。

インタラクト性

役者が観客を視認し接触することはほとんどなかったが、次の例外があった。

  • まれに、役者が観客を小道具のように使うことがあった(一緒に踊る、目線を合わせる、髪を撫でる、存在に怯えるなど)。
  • まれに、役者が観客の1人を個室に連れ込み、仮面を外して小芝居を行うことがあった(1:1と呼ばれるらしい)。

NPCとのインタラクトって……ゲームっぽくて……嬉しい! ちなみに、自分は2回1:1を受けたのだが、これは異様に運が良かったらしい。

アクション要素

基本の戦略は、「キャラを追跡する」もしくは「観測地点を定めて定点観測する」の2パターンになるかと思われる。

しかし、キャラによっては異様なスピードで長距離を移動するため、「キャラを追跡する」を本気で行う場合はスピードやスタミナがある方が有利となる。30人ほど観測者がいる役者を追って階段を駆け上がり&駆け降り&廊下を全力疾走し終えたときには観測者が片手数になっていることも多々あった(見失うことも多かった)。この追いかけっこが思いがけずゲームっぽい! ただし、スピードだけでは見逃しがちで、時には相手の動きを予想して次の部屋に先回りしてみたり、間取りがわかるところはショートカットして他のプレイヤーを抜かしたりと、原初の遊びの楽しさがあった。

ただ、歩きで追える範囲だけ追跡したり、定点観測するのでもかなり楽しいとは思う。役者に撒かれてしまった人間は迷子として建屋を彷徨うことになるのだが、このときにも思いがけない発見があった。

プレイログ(ネタバレ)

初見感想の共有として、自分がどのように動いたか書いておきます。ネタバレです。

  • 閑散とした街路のある階で、エレベーターから降ろされる。
  • 『マクベス』であることは知っているので、メインキャラクターを探して走り回り、階段を発見する。墓地などを彷徨った後、とりあえず1階に行き、森を駆け抜ける。
  • 謎の男性とダンスをしている女性(A)を発見。Aは広間に移動し、木のプロップを片付け、観客の1人を選んで社交ダンスをする。同じ広間に徐々にキャラクターが集まり、舞踏会が始まる。
  • 舞踏会が終わったあと、誰もいない広間で、Aがカツラを取る(ここで、Aが《魔女》であることを知る)。《魔女》は鏡を見て、自分の姿が変わっていることに気づき、観客の髪を羨ましがる。
  • 《魔女》は街路に移動し、複数人(他の魔女ら?)と合流して演技を行う(しかし、この時点ではキャラクターの区別がついておらず、何が行われていたかしっかり覚えていない)。
  • 《魔女》を見失い、竹林などを走り回ったのちに街路に戻る。
  • 扉を開けて剥製店に入り、店主を観察していると、店主に誘導されてバックヤードに連れ込まれる。仮面を外され、脈などを確認しながら中国語で何かを話しかけられる。「不好意思, I don’t really speak Chinese」と(怪しい発音で)言うと「Doesn’t matter」と言われ、剥製の鳥や狸を見せられ何かを説得される。そのあと注射器を取り出し、注射をされそうになるが固辞すると、引き出しにある2つの角砂糖を示され1つ選ばされる。選んだ方の角砂糖に注射の中身をかけられ、それを食べるように言われる(残ったもう1つの角砂糖は店主が同時に食べた)。店内のBGMが心臓の速まる音になり、そのまま隠し扉から広間に戻される。
  • 広間の長机では晩餐が行われており、長机の最右に座っていた女性(B)を追いかけることに決める。Bは寝室に行き、何者かの衣類を掻き抱くが、その中の羽毛を見て絶望する。
  • Bを見失い、彷徨う。
  • 客間で妊婦(C)が死んでいるのを発見。その後、男性(D)が現れ、Cの遺体を発見し、どこかに駆けていく。
  • ここでおそらくループが開始する。
  • Cが立ち上がり、トランクを持って階段を上がり自室であろう寝室に向かう。手をハンカチで拭き、外着から普段着に着替え、赤ん坊の着替えを畳む。その後、Cは部屋を出て、廊下にて鏡を裏返して怯える。
  • Cは寝室の隣の部屋に移動し、マリア像に祈りを捧げる。その後、Dが現れ、2人で寝室に戻って外着に着替える。その後、2人で広間に移動する。
  • 広間では2回目の舞踏会が始まっていた。メイド(E)が舞踏会の片隅でミルクに毒を入れ、Cに薦めているのに気がつく。舞踏会後、Eを追う。
  • Eは移動する途中に置いてあったグラスに毒を入れ、他のキャラクターにお辞儀をし、服を片付けたのち、扉の前で立ち止まる。
  • Eにより、Eの部屋と思われる小部屋に連れ込まれる。仮面を外され、「疲れて見える」と言われ、座るように促される。そのまま背後にまわられ、「波の音を聞いて。私、カツカツという靴の音がいつまでも聞こえるの」と言われ、「あなたに見せたかった」と棚に隠されたミニチュアの寝室を見せられる(どの寝室かは特定できなかったが、衝立があった)。そのまま仮面を再びつけられ、部屋から追い出される。
  • ひとしきり走り回り、一度はチュートリアル画面(ゲーム開始前に注意事項を教えてもらうバー)にも迷い込む。その後、探索を続ける。
  • 迷い込んだ部屋で、半裸の男(F)が髭の男性(G)を枕で窒息させるところを目撃する。ここで、先のループで発見した羽毛が枕のものであることを理解する。また、Fの手が血まみれなのを見て、Fが《マクベス》だと理解する。
  • 《マクベス》は手を血まみれにしたまま移動し、Bと合流する。ここで、Bが《マクベス夫人》だと理解する。《マクベス》は全身の血を洗面台で洗い流す。
  • その後、《マクベス》と《マクベス夫人》を見失う。
  • Dを発見し、追いかける。Dは何者か(H)と、ミニチュアの木を動かして議論を重ねる。ここで、おそらくこれは原作の「木に扮してマクベスを攻める」計画のシーンであり、おそらくDは《マクダフ》、Cは《マクダフ夫人》であることに気づく。
  • 《マクダフ》はカジノに移動し、Hおよび知らない男(I)とカードゲームを行う。その後《マクダフ》は、HもしくはIと尋問室に入り、尋問を行う。
  • その後、《マクダフ》を見失い、走り回る。
  • 大きな寝室で看護師3人(J、K、L)を発見する。Jを追いかけて広間に戻ったところで、晩餐会および《マクベス》の処刑を見る。
  • バーに戻り、他のプレイヤーである友人たちと合流する。
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