「同性愛関連語の使われ方」一部掲載(和訳)

Gender-and-Sexuality

※下記は和訳であり、相違ある点は原文(英語版)が優先されます。

2018年に「同性愛関連語の使用について」と表し、同性愛者に関する単語の使用について文章を書きました。最終的にどこにも公開しなかったため、文献調査の抜粋のみWeb掲載しておきます。何かの役に立ちましたら幸いです。

文献調査

この調査の要旨:英語圏での研究により、学校では同性愛関連語である卑罵語がよく使われることが明らかになりました。また、セクシャルマイノリティへの悪影響の大きさも明らかです。また、これらの卑罵語がセクシャルマイノリティをターゲットにした意図的な差別用語として使われているとは限らないことも、研究から明らかになりました。

この調査の目的:本調査では、日本における「男性同性愛者やMtFトランスジェンダーに関連する単語」の使用に焦点を当てています。この調査は、「同性愛嫌悪語がセクシャルマイノリティに与える影響」「異性愛者男性に対する同性愛嫌悪語の使用」「日本の同性愛関連単語や、それと関わりを持った単語の意味」「日本の学校におけるセクシャルマイノリティのための環境」などを調査した既存の研究の流れに沿うものです。

この調査における定義:本稿では、「同性愛関連語(Homosexual-themed words)」を「同性愛や同性愛者を表現する単語」、「同性愛嫌悪語(homophobic words)」を「同性愛に関連した単語でネガティブなものを表現するために使われる単語」と定義しています。また、「LG」、「LGB」「LGBT」などと記載される際、「L」は女性同性愛者、「G」は男性同性愛者、「B」は両性愛者、「T」はトランスジェンダーを指します。

1. 同性愛嫌悪語がセクシュアルマイノリティに与える影響

この章の要旨:同性愛嫌悪語は、同性愛者と異性愛者の両方を対象に使用されています。研究者たちは大学での調査結果から、対象がいずれの場合でも、同性愛嫌悪語がセクシャルマイノリティへの嫌がらせとして機能し、セクシャルマイノリティに起こりうる暴力や状況を想起させる可能性について警告しています。

偏見による出来事(マイノリティに対する拒絶、差別、暴力など)が引き起こす深い差別的な文脈によるストレスは、偏見的な出来事そのものの結果よりも、被害者の自己評価の低下を引き起こしています(Meyer, 1995)。例えば、言葉による虐待などの一見些細な出来事も、暴力への恐怖や深い拒絶感につながる可能性があります(Meyer, 1995)。例えば、LG学部生のペンシルバニア州立大学での経験に関する調査では、LGB学生が経験した差別と、差別事件を報告したかどうかの理由が示されています(D’Augelli, 1992)。調査対象となった113人のLGB学生の、暴言や軽蔑的なコメントを受けた割合の高さ(77%)は、そのような学生の多くが自分の身の安全を恐れて、身体的虐待のようなより過激なハラスメントを引き起こすリスクを取るよりも、暴言を容認することを選んだ理由を示しています(D’Augelli, 1992)。また、Hidaka(2007)は、2005年と1999年のインターネット調査のデータから、「ホモ」や「オカマ」などの単語でいじめられた経験のあるゲイおよびバイセクシャル男性は、そうでないゲイおよびバイセクシャル男性に比べて1.6倍も自殺未遂を経験した可能性が高いことを明らかにしています。

異性愛者の、互いに対する同性愛嫌悪語の使用は、同性愛者に向けられていないため(参考:『2. 異性愛者に対する同性愛嫌悪語の使用について』)、上述した同性愛者に対する卑罵とは異なるようです。しかしながら、その言動を目撃した同性愛者は、自分が同性愛嫌悪的な行動によって距離を置かれる対象かつ、スティグマ化された集団の一員であると認識し、自己の性的指向の受け入れが妨げられる可能性があるため、有害です。また、この種の行動は、LGBに対する偏見の表明を可能にする「異性愛者規範」を助長します(Burn 2000)。

多くのLGBが思春期から青年期にかけて性的指向を固めていくため、若いLGBが同性愛嫌悪的な嫌がらせに遭うことは特に有害です。

1989年に大西洋岸の州立大学で行われた平均年齢21歳のゲイ男性61人を対象とした調査にて、D’Augelli(1991)は、同性愛者の若者が自分の性的指向を最初に認識するのは多くが思春期の初めであり、そのセクシャルアイデンティティは思春期の後半に固まっていくことを発見しました。この発見と一致して、日本でも、LGBTの若者のセクシャルアイデンティティやジェンダーアイデンティティの認識に関連した出来事のほとんどが、中高生期に起こります(Kasai 2017)。Hidaka(2007)は1999年にゲイおよびバイセクシャルの男性1025人を対象にインターネット調査を実施しましたが、平均13.1歳で「自分がゲイであると漠然と認識した」、13.8歳で「ホモセクシュアルや同性愛という単語を知った」、15.4歳で「自分は異性愛者ではないと感じた」、17.0歳で「自分がゲイであると明確に認識した」という結果となりました。LGB 回答者を対象とした調査では、男性は平均中学1年生頃に「同性への気持ちに気づいた」、女性は平均中学2年生頃に「気づいた」との回答となっています(いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン)。

D’Augelli(1991)によると、LGの若者のほとんどは大学に入るまでカミングアウトしておらず、カミングアウトした若者は深刻な心理的および家族関係的影響を受けることが多いです。また同研究によると、同性愛者であるとオープンにしているかは、同性愛者や異性アライとの親しいネットワークを持っているかと相関関係があります(D’Augelli, 1991)。これは、大学入学前のLGの若者のほとんどが、自身の性的指向に自信を持つ機会を持たないことを意味します。このデータは、セクシャルマイノリティの自殺率の高さと結びつけることが可能です。Hidaka(2007)の1999年の研究では、平均16.4歳で「初めて自殺願望を持った」、17.7歳で「初めて自殺を試みる」という結果が出ています。

2. 異性愛者に対する同性愛嫌悪語の使用について

この章の要旨:差別語の使用はLGBに影響を与えるが、これらの単語は必ずしも同性愛者をターゲットにして使われているわけではありません。異性愛者の男性は、社会的集団の中で男性的とされるための条件を達成するために、これらの言葉を使用するよう動機づけられています。

McCormack(2011)は、同性愛関連語は、ほとんどが同性愛に厳しい文化により引き起こされ再生産されますが、必ずしも同性愛者を直接的に差別するために使われているわけではないと述べています。彼の理論研究では、同性愛関連語が同性愛嫌悪的かどうかは、「悪質な意図(同性愛との関連付けが、人や行動を貶したり疎外するために使われているか)」「同性愛嫌悪的な環境」「負の社会的影響」の3つの要素に支えられた、文化的文脈に依存していると示しました。

Chonody, Rutledge & Smith (2012)は、2008年から2009年にかけて、米国の4つの大学の学生851人を対象に、「gay」という単語を「価値がなくつまらない」という意味で使うことと、反同性愛的な偏見の関わりを調査しました。彼らは、「gay」という単語で「くだらない、ダサい、つまらない」ことを表現するのは、最近のスラングの使われ方と関係があったとしても、同性愛者に対する偏見と関係ないと発見しました。

同様に、Burn(2000)のアメリカでの調査では、異性愛者の男子大学生138人のうち63%が「テレビで同性愛者の映像を見たときに同性愛者に関するジョークを言う」「冗談の侮辱として『faggot』などの単語を使う」などの反同性愛行動を頻繁に行っていたものの、これらの行動を行った回答者の約半数は、強く同性愛に反対しているわけではなかったとしています。これらの回答者にとっては、その行動は社会集団からの承認を得るための行いなのかもしれません。Burnは、この同性愛嫌悪語は、ほとんどが男性同性愛者に対して使われ、若い男性同士の間で使用されていると指摘しています。さらにBurnは「男性同性愛者とレイプを結びつけるステレオタイプが、男性異性愛者に恐怖を与えている」また「男性同性愛者は「女々しい男性」であるというステレオタイプが、男性同性愛者を切り捨てることで自分の男性性を守るといった行動の動機となっている」と推測しています。

Pascoe(2005)は学校での調査により、「fag」は同性愛者の男児に結び付けられたレッテルであるだけでなく、異性愛者の少年に一時的に付与されるレッテルでもあると実証しました。「fag」とされることは、セクシャルアイデンティティだけでなく、男性的な課題(能力、異性愛者的な力、強さなど)に失敗したり、弱さや「女性らしさ」を露呈したりすることとリンクしているというのです。Pascoeによれば、「fag」は少年たちのジョークの中心的テーマです。少年たちは次の2つの方法で「fag」への恐怖を呼び起こします。第1は、誇張された「女らしさ」のユーモラスな模倣、および他の少年たちに性的欲求を覚えているふりをすること。模倣演技の後、すぐに再び男性的になることで、自分は「fag」ではないと周りに保証します。第2の方法は、お互いに「fag」の侮辱をぶつけ合い、それぞれが誰かに「fag」のレッテルを移すことです。

このような同性愛嫌悪語の使用は異性愛者に向けられていますが、同性愛嫌悪の影響は同性愛者だけでなく、「同性愛者狩り」(gay-bait)を受けた異性愛者にも及ぶため、有害です。

Kimmel(2000)は、思春期の若者の間で、自己が「sissy」だと見られることへの恐怖として表面化された同性愛嫌悪は、文化的に定義された「男らしさ」の中心的な原理であると述べています。Kimmel & Mahler (2003)は、アメリカの学校で起きた銃乱射事件を分析し、銃撃犯がすべて男児であり、ほぼ全員が「同性愛者狩り」の対象となっていたと明らかにしました。彼らが「同性愛者狩り」でいじめられたのは、彼らの性的指向とは関係なく、彼らが「変わっていて」「男らしくない」と考えられていたからです。Kimmel & Mahlerは、これらの銃撃犯は、銃撃という暴力行為に従事することで、自分たちの「男らしさ」を証明しようとしていたのだと結論づけています。

3. 日本では

この章の要旨;日本でもLGBTへのいじめは深刻な問題です。

いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーンの調査(2014)によると、LGBTの若者の84%が学校でLGBT関連の冗談を聞いたり、いじめを経験したことがあり、65%がLGBT関連のいじめを経験したことがあるという結果が出ています。また、Hidaka(2007)が2005年に回答者5731人を対象に行ったインターネット調査によると、「ホモ」や「オカマ」などの単語を使った罵倒によるいじめを経験したことがあるゲイ・バイセクシャルの男性は54.5%、罵倒以外のいじめを経験したことがあるゲイ・バイセクシャルの男性は45.1%です。

日本におけるセクシュアルマイノリティへの嫌がらせに使われる単語は、英語圏の単語とは異なる語源を持ち、それぞれ別個の意味を持ちます。

Ishida(2014)は、「ホモ」という単語の使い方を研究しています。この研究によると、「ホモ」という単語は60年代後半に新たに発明された単語として登場し、70年代半ばに普及したといいます。この単語は「男性同性愛者」だけでなく、「男性同性愛同士のセックス」や「男性同士の性的関係」をも意味しています。また、この研究では「homo」が歴史的に「家庭を(主に浮気などで)崩壊させる人、普通の人として群衆に混じっている人、エイズ患者」など、様々な意味で男性同性愛者が脅威であることを伝えるために使われていたと語っています。「ホモ」は脅威や蔑称としてスティグマを持ちつつ(Ishida, 2014)、今でも日常的な話し言葉として使われています(Niki, 2015)。

「オカマ」は、少なくとも江戸時代から男性同性愛者に対するスラングとして使われています。もともとは臀部を意味する俗語であり、「性的な場で挿入される人」と推測された同性愛者男性と関連付けられました(McLelland & Suganuma 2009)。男性の「女々しさ」や受動性との関連性から、「fairy, poof, queen, faggot」と似た意味合いとされています(McLelland 2009) 。

もう一つ、近年よく使われているスラング「オネエ」があります。平成の「オネエ言葉」のルーツは1940年代後半に上野公園近くで働いていた男娼たちにあり、「オネエ」は男娼たちの間で使われる「お姐さん」に由来しています(cited in Maree, 2013)。2000 年代以降、メイクアップ系メディアの拡大に伴い、変化の象徴として「オネエ系キャラ」がメディアに登場し、「オネエ」ブームにつながりました。オネエ系キャラは、「女性よりも女性的で、おかまキャラに比べて厳しさが少ない」(Mariee, 2013)と受け取られています。オネエは近年、タレントの 「ニューハーフ」を表す単語として頻繁に使われています(Maree, 2013)。「ニューハーフ」は「ニュー」と「ハーフ」の造語で、女装した男性やMTFトランスジェンダーを表現しています(Matsumura 2018)。

まとめ

日本の同性愛嫌悪語である「ホモ」や「オカマ」は、英語の卑罵語と似たような意味を持ち、翻訳されることもありますが、それぞれの単語には歴史があり、文化的な文脈に依存した意味を持っていることは間違いありません。日本ではセクシャルマイノリティへのいじめが多発しており、同性愛関連語の意味を実生活の中で研究することは、日本の同性愛者を取り巻く文化を知る上で重要なことです。

参考文献

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