「水辺の伝統」とゲイムービーの関連

Gender-and-SexualityMovie

疑問

映画史に残るゲイ映画というと、アカデミー賞に認知された著名作『ブロークバックマウンテン』『ムーンライト』『君の名前で僕を呼んで』などを口にする方が多いのではないでしょうか。舞台も作劇も全く違う三者ですが、一つ目に止まりやすい共通点があります──どれも水辺のシーンが出てくるのです。

調査

以前『ゲイ文学短編集』のサマセットモームの解説で「水辺の物語の伝統」という言葉が使われており、「そのワードで映画お決まりの水辺を読解することができるかもしれない」と考えたことがあります。しかし、『ゲイ文学短編集』参考文献をさらってみても何も見つかりません。

しかし検索を重ねることで、どうやら初出は『ことばが語るもの』内の一章「水辺の誘惑」ではないかと推測できるようになったため、購入して読んでみました。概要は次の通りになります。

・ルネサンス期イギリスでは「水辺では少年/青年の肉体美が見られる」という観点から「水辺=少年愛」という結び付けが行われており、それは複数の詩から読み取れる。
・時は変わって20世紀末(七十年代後半から十五年ほど)「古典における水浴び描写」が再注目され、同性愛的なものとして再読解され、シンボリズム化された。
・20世紀後半から現在にかけて、「かつて同性愛(少年愛)が許された場である古代ギリシア・ローマ」から「地中海」への連想がなされ、水辺(地中海)が「理想郷」のアイコンにされた。

結論

現代人の視点から見ると、「現代の男性同性愛」と「過去の少年愛」の同一視は、ゲイ男性とペドフェリアを関連づける根強い偏見を推し進める危険な言説に思われます。ですが、抑圧された境遇にある十九世紀の同性愛者が、古代ギリシアで公に認められていた少年愛を再解釈して理想郷を見出すのは、自然なことだったのではないでしょうか。

『ムーンライト』や『ブロークバックマウンテン』といったゲイ映画でも、水辺(前者は海、後者は川辺)は、世間の厳しい視線から逃れ、理想郷で男二人で愛を育むための舞台として使われています。『君の名前で僕を呼んで』は更に露骨で、17歳の主人公は北イタリアの地中海に面する別荘で、ギリシア・ローマ考古学の院生に恋をします。これらの映画は、「水辺の伝統」の延長線上にいると考えても、あながち間違いとは言えないのではないでしょうか。

今後の課題

・映画でたまに、「相棒が溺れているのを片割れが助ける」というhomosocial intimacyを強調する場面が出てくる。(『コードネームアンクル 』『ロードオブザリング』『グリーンホーネット』『キャプテン・アメリカ シビルウォー』『キャプテン・アメリカ ウィンターソルジャー』『スパイダーマン ホームカミング』)関連性はあるのか?。
・水辺が登場するゲイ映画を更に調べる。
・レズビアン映画に同じような伝統があるか。(伝統的に女性同性愛者の心の故郷とされていた場所はどこだろう;サッフォーのレスボス島?)ごく近年のレズビアン映画『ammonite』も『Portrait of a Lady on Fire』も海辺の話だが、関連性は? ラブロマンス自体が水辺に関連?

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