2010年頃?から良く見かけるようになった「ポリネシアンセックス」という言葉について、語源が気になっていたので調べた。
擬似科学について書いています。読む際はご注意ください。
1949年 擬似科学と光る体
全ての根源である本『Sex Perfection and Marital Happiness(1949)』について解説する。
著者ルドルフ・フォン・ウルバン(1879〜1964)は、同書の第5章で、「あるカップルがセックス後に立ち上がって触れ合うと、2人の間に光(スパーク)が発生した」という事例を紹介している。
更にウルバンは、その当事者から聞いたという「スパークが発生した際の条件」(参照:図1)を記している。

ウルバンは、カップルの間にスパークが発生したのは、男性と女性では「bio-electrical potential(以下:生体電子)」が違うからだと考えた。また、「正しい性交を通して生体電子が交流することにより両者がリラックスして満足する」と考え、それを達成するためには上記の表にある「30分の前戯or添寝」「27分以上の挿入時間」が重要であると仮説を立てた。
この仮説を補強するために、ウルバンは様々な事例を同書で紹介しているが、そのうちの主だったものは次となる(参照:図2)。

事例の1つには「South Sea Islanders(太平洋南洋の島民)は5日に1回以上の頻度ではセックスしない。さらに、前戯に30分以上、挿入後も30分以上の時間がかかる」といった旨の文章がある。
この時点では「ポリネシア」という言葉は使われていないが、これは現在知られている「ポリネシアンセックス」に非常に近い。
1985年と2002年 続く読み間違い
1985年にジェイムズ・N・パウエルという作家が『エロスと精気』にウルバンの本を引用した。さらには2002年に日本の作家の五木寛之が『愛に関する十二章』でパウエルの本を引用した。ウルバンの記した文章は、それぞれの本で伝言ゲームのように微妙に書き換えられた(参照:図3)。

現在、日本語版Wikipediaの「ポリネシアン・セックス」のページに記載されている作法は、2002年の本に書かれているものとかなり近く、参考文献にも『愛に関する十二章』が記されいる。

最後に
もともとが擬似科学に根ざしており、本当にポリネシアの風習であるかも眉唾物であり、さらには「スローセックス」などの単語で置き換え可能なので、「ポリネシアンセックス」という単語をわざわざ使う理由は無いと感じた。
参考文献
・『Sex Perfection and Marital Happiness』https://babel.hathitrust.org/cgi/pt?id=coo.31924014055952&view=1up&seq=1&skin=2021
・『エロスと精気(エネルギー)―性愛術指南』ジェイムズ・N. パウエル
・『愛に関する十二章』五木寛之
・『Karezza: Ethics of Marriage』Alice Stockham