トランスジェンダーが主人公のゲーム覚書

GameGender-and-Sexuality

大学生の頃、知人に「チェスのクイーンが好きだから財布に入れて持ち歩いている」という話を聞きました。理由を尋ねると「クイーンはトランスジェンダーのレペゼンだから」と言うのです※1。

この話からは、①ゲーム内のレプリゼンテーションは当事者の支えになる ②チェスは最高のゲーム という2点を学べます。

質問を受けたため、今までプレイしたビデオゲームの中でトランスキャラが主人公のものを並べます。掲載はざっくりと年代順です。ネタバレがあります。

Loved(2010)

主人公はピクセルでできた丸い生物です。ジャンプと矢印キー移動を使ってマップを移動していきます。随時表示されるナレーションの言う通りに行動すると荒涼とした(しかしソリッドでプレイしやすい)世界を、ナレーションに逆らうとカラフルな(しかしオブジェクトが曖昧でプレイしにくい)世界を旅することになります。シンプルですが割と楽しいです。

(画像:ゲームに失敗しすぎてカラフルになった画面)

あなたは最初に性別を尋ねられ、それを否定されます。(たとえばあなたが「Male」を選んだとしたら「Good Girl」などと言われ続ける)。他にトランス的に読解した感想が見つからなかったのですが、Misgenderingを権力構造の中心に持ってくるのが非常にジェンダークィアな表現だと感じたので記載しました。

(画像:ゲーム冒頭で聞かれる質問)

Dys4ia(2012)

数ヶ月前までAdobe Flash Playerでプレイできました。トランス女性である作者がトランスの過程で感じた障壁、とくにエストロゲンの接種に関わる体験について語られている自伝的ゲームです。主人公の半年間の旅路が描かれます。トランスジェンダーとゲームについて語るとき、欠かせない金字塔だと勝手に思っています。

(画像:冒頭の免責事項)

ストーリーはミニゲームと共に語られますが、次の画面に進むのにミニゲームに成功する必要はありません。というよりも、あなたはミニゲームに失敗するでしょう――失敗することにより、困難に際する主人公を追体験するのです。

(画像:シンプルかつ美しいミニゲーム)

We Know the Devil(2016)

悪魔と対峙するためのカソリックサマーキャンプに参加させられた3人の子供(ネプチューン、ジュピター、ヴィーナス)が主人公の作品です。神や悪魔と通信できるラジオを手に夜の森を3人で過ごします。ストーリーはクリックで進められ、随所に選択肢(3人のうち、どの2人が一緒に行動するべきかを問う)が出ます。さっくりとクリアできます。

(画像:サマーキャンプは悪様に語られる)

3人のうち、ヴィーナスは全編通して代名詞「he/him」で語られますが、4つあるエンディングのうち1つでは「she/her」表記になり、自らの望む姿となります。ヴィーナスは公式で「クローゼットのトランス女性」と明言されており、それに類した行動をとります。

(画像:女性として語られはじめたヴィーナス)

Secret Little Haven(2018)

※教えていただきました、ありがとうございます!

舞台は1999年のインターネットです。主人公のアレックスは魔法少女アニメ『Pretty Guardians Love Force』の熱心なファンで、ファンサイトを通して友人を作っていきます。アレックスは、近日公開されるPGLFの映画で少年キャラクターが魔法少女になるとの噂に胸を弾ませています。

(画像:トランスジェンダーという単語を教わるアレックス)

チャットを使ってインターネットの友人たち(特に、年上のトランス女性であるラグナ)と交流を深めることにより、アレックスは自分がトランスジェンダー女性であることに気づいていきます。アレックスのリア友であるサミーもまた、アレックスとの交流を通して徐々に自身がトランス女性であることを受け入れるようになります。

このストーリー展開はある年齢層には共感しやすいものと推測できます。人生において大切なことは全てインターネット上の友人に教わった──という人は多いでしょう。

「自分がありのままでいられるスペース」「自分と似た人の情報」そして「繋がり」を得られるという意味では、インターネットはクィアな少年少女にとって、それこそ小さな天国のような場所になり得ます。その天国の素晴らしさをとても雄弁に語っているゲームだと感じました。

基本は回答選択式のノベルゲームで、サクサク進めることができます。ただし途中でプログラミング(作中で教わる簡単なもの)を使って脱出ゲーム的なことをする場面があり、これがややこしくて数日放置してしまいました。

(画像:作中作の二次創作をゲーム内で書いたりもできます)

Celeste(2018)

舞台はカナダ。主人公のマデリンはセレステ山に登る道中、山の不思議な力により「マデリンの一部」を名乗る影と向かい合うこととなります。
ちなみに難易度はめちゃくちゃです(手がひどい筋肉痛になりましたし、コントローラは1機壊れました)が、アシストモードがあり、多くの人がプレイしやすいようになっています。自分もChapter7以降はアシストモードを使いました……。

(画像:カナダ国旗がはためく山中)

(ゲーム内で明言はされないものの、)9章ゴール後に映されるマデリンのデスク上にフラッグがあり、公式も「マデリンはトランス」と認めています。

(画像:机の上にトランスフラッグとプライドフラッグが飾られている)

If Found…(2020)

舞台はアイルランドの島Achill Islandです。ダブリンの大学でマスターを取り実家に戻ったトランス女性カシオの生活を、カシオの日記を冒頭から消しゴムで消すことで追体験するビジュアルノベルです。

(画像:日記には手紙が貼られていたりする)

美しい映像とインタラクティブなページめくりシステム、それに挿話として登場するSF(カシオペア博士が宇宙を旅する)が独特な世界観を作っています。アイルランドの文化については随所に注釈がついており、それを楽しむこともできます。

(画像:絵も可愛い)

DreamDaddy(2020)

マサチューセッツ州Maple Bay町に越してきた主人公とその娘は、家の近所が素敵なシングルファーザーだらけなことに気づきます。このゲームで特徴的なのは、恋愛対象キャラクターと最後に結ばれるとは限らないところです。作者の「その人がキスしてくるまでその人の聞きたいことを言い続けるのはソシオパスのすることだ」という思想が垣間見えます。テキスト量も多く、裏エンドもあり、非常に楽しめました。

(画像:一番左が主人公の娘。中央と右は恋愛対象キャラクターです)

主人公のキャラクターメイクの際、あなたはBinder(トランス男性が胸を抑えるための補助下着)を付けた体を選べます。恋愛対象キャラの1人がトランス男性であるゲームにおいて、主人公もトランス男性として解釈しやすい姿でプレイできるのは歓迎すべきことでしょう。

(画像:Binderをつけるか選べる。その後のゲームプレイには影響しません)

The MISSING: J.J. Macfield and the Island of Memories(2018)

主人公のJ.J.は、親友を救うために「体が傷ついてもよみがえる」不思議な世界 Memoria Islandを旅することになります。

あなたはゲームプレイを通じて、主人公の叫び声や、骨が折れる音や、体が焼ける音を聞き続けることになります。どのような残酷な死に方からも生き返るJ.J.の強さ(ひいては、これがJ.J.の精神世界であることから、J.J.の生きようとする意志)が表されているものの、かなりきついです。年齢制限があるゲームだということを踏まえたうえでプレイするか決めてください。

(画像:あまりスクショ撮ってなかったが、もう一度プレイするのは怖い)

ゲームを進めるにつれ、実は Memoria IslandはJ.J.の精神世界であり、現実世界のJ.J.は自殺未遂による昏睡状態に陥っていることが明かされます。J.J.は半クローゼットのトランスレズビアンであり、女性服が母親に見つかったことから自殺を企てたのです。

(トランスジェンダーという言葉が使われることはありませんが、)J.J.が自らの法律上の性別に違和感を感じていることは、母親や同級生とのメッセージアプリでの交流を通して明確に表されています。そしてラストシーンでは、救命措置を受ける短髪のJ.J.の上半身裸のイメージが映ります。(映像作品のトランスジェンダーキャラクターは、裸の胸を画面に大写しにされがちです)

(画像:最初に表示されるポリシー)

Tell Me Why(2020)

舞台はアラスカ。10年前、髪を短く切ったタイラーに母親が銃を持って迫り、それにタイラーの双子の姉(妹?)アリソンが抵抗したことにより、双子は母親を亡くしてしまいます。この出来事をきっかけに双子は10年間を離れ離れに育ちますが、空き家となっていた実家の売却のために2人は家に帰ることに。

本作はダブル主人公であり、章ごとにタイラーとアリソンの2人どちらかを操作する形です。他のDontNodゲームと同様に少し操作がもったりすることありましたが、とても楽しめました。

(画像:格好いいデニムジャケットを着ているタイラー)


タイラーは非常にリアリティのある、魅力的なトランス男性キャラクターです。プレイヤーは、最初に探索する部屋にある「テストステロン接種マークが書かれたカレンダー」「トランスフラッグのはためくポスター」などから既に、このキャラクターがトランス男性であることが容易に読解できます。

タイラーの軽口も聞き覚えのあるものです。――お茶とテストステロンを混ぜ飲みする発言、家に潜入するクエスト中に道草した際の「ストレートな道を歩いてたらダメだよ」発言など、クィアコミュニティにいたらウンザリするほど聞けるでしょう。クローゼットを見てジョークを言わなかったのが意外なほどです。

『Tell Me Why』のラストでは「自分たちの未来のために知りようのない過去を選び取る」という文脈で、過去の出来事(母親が銃を持ちながら迫ったこと)が差別だったのかどうかを選択することが可能です。

「一見差別的と思われた出来事だが、実は被差別者の誤解だった」というのは、危ういクリシェだと個人的には考えています。『Tell Me Why』では「差別は誤解」として誘導的に描写されている上、公式サイトに「誤解です」とまで断定的に記載されています。更にはプレイヤーの100%が「誤解だった」という選択肢を選んでいます。

しかし、あなたはいつでも0%側に立つことができます。それが正しいことかはともかくとして。

(画像:『Life is Strange』の最後の選択肢は選んだ人がそれぞれ50%に分かれていましたが、今回は100%が同じ選択肢を選んでいます)

Our Life: Beginnings & Always(2020)

舞台はアメリカ。あなたは引っ越した先の海辺の街で、Coveという名前の少年と知り合います。この話では4つの期間(幼年期、少年期、思春期、青年期)を通じて、あなたとCoveの関係が語られます。

4つの物語は繋がっていますが、4つの期間のそれぞれ初めに、代名詞やビジュアルの変更をすることができます。

更には物語の中で、法律上の性別、性自認、恋愛感情や性欲の有無or指向、自分の体についてどう思っておりどう変えたいと思っているか、などを詳細に設定することができ、更にはそれを友人に隠すかどうかも選べます。

主人公が産まれた際の性別を問う選択肢

選択肢を通して主人公のキャラクター設定を詳細に設定できる(思う通りの成長をさせられる)のは、Coming-of-ageの表現として面白いと思いました。

A YEAR OF SPRINGS(2021)

※教えていただきました、ありがとうございます!

2019年〜2020年の日本が舞台です。3話構成で、それぞれ別のキャラクターが主人公となります。 1話目はトランスレズビアンのハルが主人公で、友人のマナミに温泉に誘われるところから始まります。トランスジェンダーの女性が温泉に入るにあたり直面する壁が描かれ、読んでいて辛くなりました。

(画像:序盤はエリカが話すたびにヒヤヒヤする)

大学生らしいナイーブさを抱えた3人が、失敗しながらもお互いや自身を理解しようとする姿は全体的に好感が持てました。

(画像:都会にはLGBTフレンドリーな不動産屋があるらしい)

その他

『A Normal Lost Phone』主人公は携帯を拾った人なのですが、携帯の持ち主がトランスです。

『Diaries of a Spaceport Janitor』ジェンダーキオスクでジェンダーを変えるところまではプレイしたのですが、画面酔いしてしまいクリアできていません。 このゲームのジェンダーはバイナリーベースではないようです。※教えていただきありがとうございます。

『No Longer Home』ノンバイナリであることが明確に描かれた2人が主人公というのは珍しいですね。楽しくプレイできました。※教えていただきありがとうございます。

(2023.7追記)『He Fucked The Girl Out of Me』トランス主人公です。生々しい描写が続きます。

最後に

あまり多くのゲームしてないため、これ以上探せませんでした。

もしここに記載がないゲームをご存知の場合は、ぜひお教えください! ただし、このページは「トランスジェンダーの主人公が登場するゲーム」について書かれています。なので、該当キャラクターがNPCとして登場するゲーム(例えば『Last of Us Part 2』や『Dragon age』など)には言及していません。また、『Cyberpunk 2077』のプレイ予定はありません。

※1 チェスのルールとして、歩兵ポーンは相手側の端まで進むと他の駒(クイーン、ビショップ、ナイト、ルーク)に昇進(プロモーション)しなければなりません。クイーン以外は伝統的な男性職ですが、クイーンは言うまでもなく伝統的な女性職で、更には最強です。そして、クイーンの人数に制限はありません

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