英語圏と日本語圏のオメガバースの設定比較

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※この記事は成人向けで、性的かつ暴力的な要素を多分に含みます。

はじめに

あなたが他言語圏の友人に「オメガバース大好き!」と宣言するとき、両者が同じ設定を思い浮かべている確率は何%なのでしょうか?

以前の調査によると、オメガバース(Alpha/Beta/Omega Dynamics)は2010年に英語圏で産声を上げてから、2014年に日本語圏に紹介された設定となります。

紹介の過程で取り落とされたり、それぞれの文化圏で独自に進化した設定が数多くあるはずですが、それを比較した調査は今までありませんでした。そこで行われたのがこのアンケートです。

この記事を読むことで、あなたは自分の言語圏のオメガバースについてより詳しくなれるはずです!

この記事で使われる単語について

・「日本語圏」「英語圏」:インターネット言語圏、より詳細にはアンケート回答者が日常で触れる範囲を指します。安易に比較文化めいたことを行うには広すぎる括りですが、軽い好奇心を満たすには十分でしょう。

・「オメガバース」:特殊なパロディ設定。

アンケートについて

調査の目的:日本語圏と英語圏におけるオメガバースの設定の違いを調査し、考察する。

時期:2021年5月17日〜2021年12月2日

方式: 36問の匿名オープン型アンケート(こちらのGoogleフォームで実施

言語:日本語/英語併記

回答募集場所:Twitter、某NPOスタッフ用チャット

特記事項: 冒頭に、性的かつ暴力的な内容であり、成人を対象としている旨を明記。

実際のアンケート画面

アンケート結果

この項では、計36問のアンケート結果についてコメント付きで紹介していきます。

普段主に触れる創作

図1 あなたが普段主に触れている創作について教えてください

(参照:図1)アンケートの回答者は全体で87人であり、全体で5言語に触れていました。言語ごとに5群(図1:黄色)に分け、さらに今回メインで調査する日本語と英語については、その言語のみに触れている集団(図1:オレンジ)をピックアップしました。

これより下は、「日本語作品だけ読む群」(以下:日本語ONLY群)と「英語作品だけ読む群」(以下:英語ONLY群)を中心に見ていきます。

図2 あなたは普段、月にオメガバース作品をどのくらい読みますか?

(参照:図2)続いて、それぞれの群について、1ヶ月にオメガバース作品をどの程度読むかを「1作品以下」「2〜10作品」「11作品以上」3択で確認しました。

英語ONLY群の方がオメガバース作品に若干多く触れている結果となりました。以下の質問でも、「本アンケートにおいて、英語群の方がオメガバースの設定について若干詳しい」という形で出てきそうです。

オメガバースの設定について

34個のオメガバース設定に対して、回答者はそれぞれ「読んだことがある」「読んだことがない」かの2択を選択しました。

回答者の興味を持続させるため、AO3からサンプリングした設定を中心に、メジャーな設定とマイナーな設定を織り交ぜて質問しました。質問は「A. 社会通念・マナー」「B. 第二の性の判明」「C. 教育・医療」「D. オメガの権利」「E. 生殖・つがい」「F. フェロモン・匂い」6トピックに渡ります。

A.社会通念・マナー

図3「アルファは一般的に学術的能力(もしくは/および)運動能力において優秀」

(参照:図3)問3「アルファは優秀」は、英語ONLY群は83%、日本語ONLY群は95%が既読の設定でした。

英語圏においては「…とされているが、それはただの偏見である」と設定上で明記されていることが多いことが理由かもしれません。どちらにしろ、殆どが読んだことのあるスタンダードな設定です。

図4「ベータの人口比率はアルファおよびオメガに比べて高い」

(参照:図4)問4「ベータの人口比率は高い」について、英語ONLY群は91%、日本語ONLY群は100%が既読でした。

オメガバースが日本語圏に導入される際によく参照されたのが「オメガバースを知らない人に簡単に説明するメモ(pixiv)」などの個人による紹介ガイドですが、これに人口比について明記されているためか日本語圏では「βが多く、それ以外は少ない」という設定が多く見られます。英語圏でも同様の設定は多いですが、日本語圏ほど明確にコンセンサスが取れているわけではないようです。

図5「群れという集団に属するのが一般的である」
図6「子供(Pup)は群れ(Pack)全体で育てるのが一般的である」

(参照:図5、図6)問5「群れに属する」問6「子供は群れで育てる」では、英語ONLY群がそれぞれ70%、46%のところ、日本語ONLY群では既読率0%となりました。

オメガバースの前身設定のTrump!verseは犬をモデルにしており、その後生まれたKnotting AUも犬科の特徴を例示しています。その影響からか、英語圏ではを元にした設定が採用されていることが多いように見掛けられます。「α・β・Ω」の呼称が(人の飼育環境下で観察された)狼の群れのピラミッド構造と同じなことや、同時期に人狼をテーマにしたドラマ『Teen Wolf』が流行ったこと、『スーパーナチュラル』が人狼などの超常現象と相性が良かったことなども影響しているのかもしれません。群れ(Pack)をもとにした社会システムもその一つでしょう。しかしながら日本語圏オメガバースでは、犬科的な要素は殆ど見受けられません。

図7「首筋を剥き出しにすることで怒った人を宥めることがある」

(参照:図7)問7「首筋を剥き出しにして怒りを宥める」について、英語ONLY群は85%、日本語ONLY群は14%が既読でした。

犬科の習性に端をなす設定が、少ないながら日本語圏でも存在していると言う結果になりました。実は日本語圏オメガバースで犬科要素が完全に排除されているわけではなく、問28「首を噛む」要素のみは日本語圏でも良く見かける設定となっているため、それに関連して広まったのかもしれません。

図8「逃げるオメガをアルファが追いかけ、捕獲され次第強姦される行事がある」

(参照:図8)問8「逃げるオメガをアルファが捕獲し強姦する行事」(mating run)について、日本語ONLY群で33%、英語ONLY群で57%が既読となりました。

図9「うつ伏せになり、頭を地面につけたまま膝を立て、腰をそらした状態がオメガの伝統的な交尾体位である」

(参照:図9)問9「前傾うつ伏せ姿勢が伝統的な交尾体位」について、英語ONLY群では65%、日本語ONLY群では5%が既読となりました。

問5「群れに属する」で記載したように、オメガバースは犬科を元にした設定が多いですが、これも犬科の交尾体位(Doggy Style)からの派生と思われます。日本語圏では珍しい設定となっています。ただし5年ほど前から、BDSMの世界をパロディ設定に落とし込んだ「Dom/Sub」が日本語圏でも知名度を上げてきており、その中では問9の体位が「Present」体位として使われていることがあるようです。

B.第二の性の判明

※このアンケートでは、アルファ/ベータ/オメガのダイナミクスを「第二の性」(Secondary gender)と呼んでいます。これはAO3で一般的に使われている言い回しを採用したものです。

図10「第二の性は出生時に判明する」
図11「第二の性は出生時には分からず、思春期などに発現する」

(参照:図10、11)問10「出生時に第二の性が判明する」は、日本語ONLY群43%、英語ONLY群57%と、どちらも一定数が既読でした。問11「思春期に第二の性が発現する」作品は全体の99%が既読でした。

第二の性(アルファ・ベータ・オメガ)の判明のタイミングについては、各作品により揺れがあります。「思春期に発現する」に関しては、オメガバースの根幹をなす、非常にスタンダードな設定と言えるでしょう。

図12「第二の性は後天的に変化可能である。それにより、第二の性がオメガに変化することがある」

(参照:図12)問12「第二の性をオメガに変化させる」(Bitching)について、日本語ONLY群は90%、英語ONLY群は39%が既読でした。

これは推測ですが、問1「アルファの方が他の性より優秀」という設定が比較的根強い日本語圏においては、「優秀なオメガ」を登場させるために「アルファをオメガに変化させる」設定の需要が高いのかもしれません。

図13「アルファの精液を摂取することにより、別の性からオメガに変化することがある」

(参照:図13)体液に不思議な作用がある設定ってすごく根強い人気がありますよね。

C.医療・教育

図14「オメガあるいはアルファの発情を抑えるための、抑制剤が存在する」

(参照:図14)問14「抑制剤が存在する」設定は、全体の100%が既読でした。

問25「アルファはオメガの発情期のフェロモンに反応して発情する」(全体の97%既読)のように、発情が自らコントロールできないことが多いオメガバース社会において、抑制剤は人々が社会生活を安全に送るために欠かせないものとなっています。

図15「オメガあるいはアルファのフェロモンを抑える、匂い消しが存在する」

(参照:図15)問15「匂い消しが存在する」では英語ONLY群は98%、日本ONLY群は76%の既読率でした。

英語圏オメガバースでは匂いは四六時中出ていることが通常ですが、日本語圏では「発情期以外では匂いを出さない」設定も多いため、匂い消しの需要も低いのでしょう。問25「アルファはオメガの発情期のフェロモンに反応して発情する」(全体の97%既読)にあるように、オメガバースの世界において匂いは重大なリスクになり得ます。また、問18「オメガへの就職先の制限がある」(全体の83%既読)などの理由から、オメガが第二の性を偽る必要があることも多いでしょう。匂い消しの開発はオメガバース世界のオメガの人生に新しい機会をもたらしました。

図16「生殖について性教育の授業で教えられている」

(参照:図16)問16「生殖について性教育の授業で教えられている」は日本語ONLY群の86%、英語ONLY群の78%が既読でした。

ストーリーの導入にオメガバースの設定の説明として教えられていることが多いように感じます。また、ポルノの舞台として性教育の授業が使われることもあるようです。

D.オメガの権利

図17「オメガ権利運動が存在する」
図18「オメガには就職先に制限がある」

(参照:図17、18)問17「オメガの就職先への制限」は日本語ONLY群は57%、英語ONLY群は76%でした。問18「オメガ権利運動」については、日本語ONLY群はこちらも57%、英語ONLY群は87%となりました。

英語圏ではオメガバース世界での政治活動が作品のトピックになることが比較的多いように感じるため、それが関係してくるのかもしれません。

図19「オメガの結婚相手は、本人以外の他者が定める」

(参照:図19)問19「オメガの自由恋愛や結婚の自由の制限」について、英語ONLY群は74%、日本語ONLY群は33%の既読率でした。

これについては、英語圏では中世パロが比較的盛んなことが原因かもしれませんね。

図20「一般的に、オメガは首輪をしている」
図21「一般的に、オメガの首輪にはアルファの名前が記入されている」

(参照:図20、図21)問20「オメガは首輪をする」は、日本語ONLY群は67%、英語ONLY群は52%が既読でした。問21「オメガの首輪にはアルファの名前がある」については、日本語ONLY群は29%、英語ONLY群は22%が既読です。

オメガバースの起源の「Trump!verse」は『わんわん物語』の飼い犬レイディ(もちろん素敵な首輪がついています)と野良犬トランプの関係を例示したものですし、直接の関係はないかもしれませんが回帰的なものを感じる設定ですね。

図22「オメガは首を噛まれるのを防止する意味で首輪をつける」

(参照:図22)問22「オメガの首輪は首を噛まれるのを防止するため」について、日本語ONLY群は81%、英語ONLY群は26%が既読でした。

図28「アルファは交尾中にオメガの首を噛む」は全体の99%が読んでいる非常にスタンダードな設定ですが、防御策は言語圏ごとに違うようです。

図23「オメガ、ベータ、アルファは、それぞれが違う服装をすることを求められる」

(参照:図23)問23「第二の性により服装が違う」については、日本語ONLY群が0%、英語ONLY群が20%と、英語圏の方が既読率が高いながら、殆どが未読となりました。

E.生殖・つがい

図24「オメガには運命の番が存在する」

(参照:図24)問24「運命の番がある」については、日本語ONLY群95%、英語ONLY群74%でした。

日本語圏の方が既読率が高い結果となりました。ただし実際は、英語圏でも日本語圏でも下火になってしまった設定というイメージがあります。英語圏では需要がSoulmate AUに完全に取り込まれてしまったのではないでしょうか。

図25「アルファはオメガの発情期のフェロモンに反応して発情する」

(参照:図25)問25「アルファはオメガの発情期のフェロモンに反応して発情する」は全体の97%が既読でした。

『ファインディング・ニモ』でドリーの鼻血を嗅いだ鮫が理性を失うシーン、怖いですよね。あれに似たことがひっきりなしに起こるのがオメガバースの世界です。

図26「アルファの精液量は多い」

(参照:図26)問26「アルファの精液量は多い」について、英語ONLY群では91%、日本語ONLY群では57%が既読でした。

オメガバースの起源の2010年からある古来ゆかしき設定なのですが、日本語圏には上手く輸入されなかったようです。

図27「アルファは交尾中に男性器の根本を膨らませる(ノット)ことがある」

(参照:図27)問27「アルファは交尾中に男性器の根本を膨らませる」は、日本語ONLY群では67%、英語ONLY群では98%が既読でした。

問26と同じく2010年からある古来ゆかしき設定であり、犬の生態を模しています。

図28「アルファは交尾中にオメガの首を噛む」
図29「アルファがオメガの首を噛むことで両者は番として成立する」

(参照:図28、図29)問28「アルファは交尾中にオメガの首を噛む」は全体の99%、問29「それにより両者は番として成立する」は全体の97%が既読となりました。

どちらも両言語圏でスタンダードな設定です。噛まれた後は歯形が残ることが多く、痛そうだなと思います。

図30「発情/発現/妊娠/子育てなどをきっかけとして、アルファもしくはオメガが巣作りを行う」

(参照:図30)問30「巣作りをする」(nesting)について、英語ONLY群では87%、日本語ONLY群では100%の既読率となりました。

こちらは2014年当時は日本語で殆ど見かけなかった覚えがあるので、その後広まったのでしょう。鳥の習性でしょうか?

図31「ベータは、アルファやオメガに比べて生殖能力に劣っている」

(参照:図31)問「ベータは他の第二の性に比べて生殖能力が劣る」について、日本語ONLY群では38%、英語ONLY群では72%が既読でした。

オメガバースの起源の一つ「Knotting AU」ではアルファの生殖能力が強いことが明記されており、それが反映されている設定となっています。

F.フェロモン・匂い

図32「アルファはオメガに、尿や精液などを使ってマーキングを行う」

(参照:図32)問32「アルファはオメガにマーキングする」について、日本語ONLY群では43%、英語ONLY群では54%が既読となりました。

図33「アルファは、オメガが妊娠中かどうか嗅ぎ分けられる」

(参照:図33)問33「アルファはオメガが妊娠中か嗅ぎ分けられる」は日本語ONLY群では95%、英語ONLY群では74%が既読でした。

問15「匂い消し」でも書いたように、英語圏では発情期以外にも匂いが出ている設定が多く、それで状態などを読み取ることが多々あります。日本語圏では珍しい設定のようですね。

図34「不安を感じたオメガは、すっぱい(あるいは不快な)匂いを出す」
図35「不安を感じたオメガは、あまい(あるいは心地よい)匂いを出す」

(参照:図34、図35)問34「不安なオメガは酸っぱい匂いを出す」は英語ONLY群の83%が既読ながら、日本語ONLY群では0%でした。問35「不安なオメガは甘い匂いを出す」は英語ONLY群の26%、日本語ONLY群の10%が既読でした。

問15「匂い消し」問33「妊娠の嗅ぎ分け」で書いた「英語圏では発情期以外にも匂いが出ている」というのが、この問でも現れた形です。

図36「ベータはオメガおよびアルファのフェロモンを感じ取れない」

(参照:図36)問36「ベータはフェロモンを感じ取れない」について、日本語ONLY群は76%、英語ONLY群は78%が既読でした。

フェロモンがオメガとアルファの出会いのきっかけとなっているオメガバース世界にとって、その枠外とされることの多いベータがフェロモンを感じ取る必要性ってあまり無いのかもしれませんね。

結果

図37

(参照:図37)英語ONLY群と日本語ONLY群の既読率パーセンテージを比べてみました。

青髭遺伝子として輸入されて日本語圏のほうが栄えている設定や、完全に取り落とされてしまった設定があるようです。それぞれ可視化されると面白いですね。

全体の傾向としては「①狼的な設定は日本語圏には少ない」「②平時の匂いに重点を置いた作品は日本語圏には少ない」の2点が読み取れました。なんとなく抱いていた印象が実際に数値として出てきて満足です。

結論

言語ごとにオメガバースの設定の傾向が分かれており、すごく面白いことがわかりました。

最後に

アンケートにご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました!

グラフがたくさん作れて楽しかったです。

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